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仙台高等裁判所 昭和60年(ラク)29号 命令 1985年10月15日

申立人(控訴人) 森本操

相手方(被控訴人) 国

主文

本件控訴状却下命令中、本訴に関する控訴申立を却下した部分を取消す。

申立人の本件その余の申立を却下する。

理由

一  本件申立の趣旨は「本件控訴状却下命令を取消す。」というもので、その理由は別紙記載のとおりであるほか、昭和六〇年九月二日付理由書により「反訴請求に対する部分は不服の対象としない」旨明らかにしている。

二  本件控訴事件について申立人が提出した控訴状には、被控訴人(相手方)の本訴請求を認容し、控訴人(再審申立人)の反訴を却下した原判決全部を不服とし、原判決を取消して被控訴人の請求を棄却し、控訴人の反訴請求を認容する旨の判決を求めるとの記載がある。そうすると本件控訴申立について納付すべき手数料(貼用印紙額)は本訴に関するものと反訴に関するものを合算すると二四三万一三五〇円であるところ、本件控訴状には四万五九〇〇円の印紙が貼付されているにすぎない。そこで当裁判官(裁判長)は昭和六〇年七月二五日申立人に対し右手数料の不足分二三八万五四五〇円を一四日以内に納付すべき旨の補正命令をなし、同命令書正本は同月二七日申立代理人に送達されたが、その後右命令所定の期間内に手数料の不足分が納付されなかつたので、同年八月一四日本件控訴状を却下する旨の命令をし、右命令正本は同月一九日申立代理人に送達された。高等裁判所の裁判長がなした控訴状却下命令に対しては最高裁判所に特別抗告をなしうるが、特別抗告の提起期間は五日(不変期間)であるのに、右期間内に特別抗告がなされなかつたので、右控訴状却下命令は確定した。以上の事実は訴訟上明らかな事実である。

三  本件申立書は本件控訴状却下命令確定後の同年八月二六日当裁判所に提出されたものであるから特別抗告としては不適法であるが、民事訴訟法四二九条の準再審としてはその要件を充足している。よつて本件申立の理由も準再審申立の理由と解し、その当否を以下に検討する。

記録によれば、原判決中本訴に関する部分に対する控訴提起の手数料は四万五九〇〇円であることが明らかであり、その額は本件控訴提起時に納付された収入印紙額と一致する。したがつて申立人が本件控訴提起時に納付した右手数料(収入印紙)は本訴に関する控訴に対応するものとして納付されたものとすれば、これを充足しているところ、申立人は前記のとおり本件控訴のうち反訴に関する部分の不服を維持しない意向を明らかにしているから、本件控訴の提起は、原判決中本訴に関する部分に対する不服の限度では所定の手数料の納付があつたものと認めるのが相当である。

四  そうすると本件控訴状却下命令はその結論に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したものというべきであるから、民事訴訟法四二九条、四二〇条一項九号にしたがい、本件控訴状却下命令中、本訴請求に関する控訴を却下した部分を取消すべく、本件その余の申立については、民事訴訟法四二〇条一項各号の再審事由に該当しないことが明らかである(記録によると、相手方の申立人に対する本訴請求は、本件係争山林の所有権の確認を求めるというものであるのに対し、申立人の反訴請求は本件係争山林内に生立する立木の共有持分二分の一を訴外人から買受けたとしてその立木の共有持分の確認を求めるというもので、両者は訴訟物を異にし、控訴提起の手数料も別個に納付すべきものである。)から、不適法として却下することとし、主文のとおり命令する。

(裁判官 田中恒朗)

本件控訴の趣旨は、控訴状の記載からも明かなように土地所有権確認の本訴請求と、右土地上の立木所有権確認の反訴請求の二個であるところ、裁判官が控訴人において所定の期間内に印紙を納付しなかつたことを理由に二個の請求を却下する命令をしたが、右命令は法令の解釈適用を誤つた違法があるので取消されるべきものと思料する。

一 先ず、本訴請求についてみるに、被控訴人(原告)国の請求は「被控訴人国と控訴人森本らとの間において、本件土地(青森地方裁判所昭和六〇年二月一二日付判決別紙目録(一)記載の土地)について、被控訴人が所有権を有することを確認する」との請求が主体であるところ、控訴人らは被控訴人が右所有権を有することにつき原審以来これを争つているのであるから、本訴請求に関する控訴審の訴訟物価額は、原審で被控訴人が訴訟提起をしたときの訴訟物価額金四五五万五五〇円(記録を精査するも如何なる根拠から訴額を算出したのか不明である。)の一・五倍であるから(民事訴訟費用等に関する法律第四条第一項および別表第一の第二項下欄参照)、右訴額に対応する貼用印紙額は控訴人森本が控訴状に貼付のうえ既に納付した金四万五九〇〇円をもつて相当であると考える。従つて、本訴請求について、何の根拠を示すことなく金二三八万五四五〇円の印紙の納付を命じたこと、これに応じなかつたとして本訴請求を却下したことは、明かに法令の解釈適用を誤つた違法があるので、右却下命令は取消されるべきものと考える。

二 次に、反訴請求についてみるに、被控訴人国が原審において提出した訴状記載の請求の趣旨によれば本件土地につき所有権の確認を求めるものであるところ、請求原因によると本件土地に立入りヒバ等の立木を不法に伐採したことをも主張しているのであるから、右立木の所有権についても被控訴人国にあることを前提として請求をしているものと認められる。従つて、被控訴人国の本訴請求には、本件土地の所有権確認のみではなく、その地上に生立する立木の所有権の確認をも包含しているものと解せられるし(この点は、被控訴人国が原審において提出した昭和五二年二月一五日付第一準備書面第三の(三)の記載からも明かのように本件土地に生立する立木を処分するなどしていることからみて、立木についても被控訴人国の所有に属することを前提としていることが窺える。)、また判例(昭和六年六月二日朝鮮民判。評論二〇巻七〇四頁。判例体系民事訴訟法(1)二一巻二七〇頁)によれば、土地の所有権移転登記手続請求事件において、土地とこれに生立する樹木とが同一所有者に属する場合には訴額を合算すべきであると判示しているところからしても、本訴請求の場合、本件土地の所有権確認請求のうちには、その地上に生立する立木の訴額をも当然包含しているものと解する。

2 訴訟法上、一つの訴で数個の請求につき審判を申立てる場合は、請求の客観的併合(民訴法三二七条)と、主観的併合(同法五九条)の外に反訴請求も認められているが、(同法二三九条)、同一当事者間で同一の確認対象物件につき、いずれも積極的に確認請求を提起する場合には、本訴請求と反訴請求とに該当するものであると解せられるところ(小山昇「現代法律学全集22民事訴訟法(三訂版)」四八頁、四九頁。二一〇頁。五三〇頁乃至五三二頁参照)、本訴請求と反訴請求とはその訴額を合算しないものと謂われている(前掲書四九頁注(一)参照)。

3 ところで、控訴人森本の提起した反訴請求は、本訴請求の土地の上に生立する立木の一部であり、しかも前記のように本件土地の確認請求のうちにはその地上の立木も含まれ、しかも訴額が合算されているものとみられるのであるから、本件反訴請求につき改めて手数料を支払うことはないものと思料する。従つて反訴請求につき本訴請求と同様印紙の納付を命じ、これに応じなかつたとして請求を却下したのは、明かに法令の解釈適用を誤つた違法があるので、右却下命令は取消されるべきものと考える。

以上

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